花が咲く頃にいた君と

あたしとお母さん

「結女…」


昔話を聞き終わった丁度その時、病室の扉は開いた。


しゃがれたお爺さんの声が、とても静かなこの部屋に響いた。




「お爺さん」


車椅子に乗ったお爺さんの膝の上

枯れて今にも粉々になってしまった花冠が、ソッと乗っていた。



「あの子なら心配いらない。ちゃんと手術を受けられる」

「ありがとう、…ございます」



あの頃の口調で、つい話してしまいそうになる。



「誰かに泣き付かれたのは初めてだ」



お爺さんの口許には笑みがのせられ、声もどことなく楽しそう。



「私の人生は後悔ばかりだった。けれど最後に孫の頼みを聞いてやれて、良かった」

「最後だなんて…」

「もう、私はいつ死ぬか解らないからね。誰かのお願いを叶えるのは、これが最後だろう」

「ごめん、なさい」



自然と口から溢れた言葉。



みんなが望んでいる。



「“お母さん”じゃなくて、あたしでごめんなさい」



みんな、あたしじゃなくて

“お母さん”を望んでる。




< 236 / 270 >

この作品をシェア

pagetop