天狗の嫁入り
「彗さまに御用ですか?姫君?」
「っ!?」
「おっと、失礼いたしました。当主に仕える臣下の一人 相模(さがみ)と申します。以後、お見知りおきを。」
人当たりの良い笑顔の青年はオロオロとする桜にもう一度、笑顔を向け襖の向こうの青年に声を掛けた。
「彗様、姫君がお見えですよ。」
そう相模が襖を開け、桜は促されるように部屋の中に足を踏み入れた。
すると、襖は静かに閉められた。
事実、部屋には2人きり。
「突っ立ってないで、座ったら?」
「はい。」
僅かな沈黙が続き、桜は思い切って俯いていた顔を上げ口を開いた。
「あ、あの。着物、ありがとうございます。それと、空で助けてもらったのもありがとうございます。」
「着物は、気に入ったか?もし、気に入らなければ好きなのを揃えればいい。」
「そんなっ、沢山ありすぎて、全部見てないんですがどれも素敵です。」
「黒地のものしか着せてやれないが我慢して欲しい。」
そういえば、箪笥に詰まっていた着物は全部、黒だった。
「黒は、俺達天狗の家紋のようなものだ。」
「そうなんですか。初めて知りました。」
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