待っていたの

ついつい歌いながら、水やりをする、黒く渦巻き私自身を飲み込むほど。
黒に負けないように…考えないように歌う。



すると…紅の衣装の宝石をじゃらじゃらと身につけた華美に装った人物が彩に拍手をした。


(打掛に…中はドレスぽいものを着込んでいる、男の………人?)


(あ、こっちにもおネェMANSいるんだ…)

そんな事をぼんやりと思う。
白髪に一滴金を溶かして混ぜたような、呆れるほど長い美しい髪の毛に綺麗に整えられた眉、髭の影も形もなくベビーピンクの薄い唇。


――綺麗な男の人。
それが第一印象。


「綺麗な歌声だね、こんな野蛮な国で聞けるとは…」

自分の髪に刺さる紅玉の簪を彩に向かって投げる。
投げるといっても、孤を描いてシャラと鈴やかな音を残し、彩の手に収まる。


「これは…?」

「もう君の仕事は終わりかい?だったら、こっちにおいで…?」

いまの彩の格好はメイドと大差ない、その自分が月妃だとは思わぬだろうと、牢屋に一声かけてついて行く。



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