待っていたの

帰り道で、逆光で顔は見えないが…武官に会う。


ただ彩はそれが誰かはわかっていた。


「疾…………」

前から歩いて来る人物に、彩は気づく。
涙が零れそうになるのを必死に我慢する。


そして、疾が騎士の礼をして道を譲る。


「姫さん、気にすんな…淑鵬は雀国に留学した、必ず帰って姫さんの力になる。俺も出世して、姫さんを守る。どれだけ時がかかろうと…約束する」

二人が行き違う寸前に、放たれた言葉。
わざわざ疾は彩を追って来た。
その言葉を言う為に

「うん、私もふたりに恥じない自分でいたい……」

言葉は少なかれど、確実に心は繋がった。


彩は零れる涙を、拭いもせず、光が射す場所へ毅然と頭を上げて歩みだす。


何度も悩むだろう、だが今日のこの日の事は忘れない。


彩の強さになる。


執務室へ帰って来る。
心配そうな翠翠が見ていたが、微笑み大丈夫だと示した。


「やっぱり、朱雀王をタラシ込んだの?」

栄達のニヤニヤと意地の悪い笑みと、陛下の不機嫌なオーラに出迎えられる。


「…いいえ。必要ありませんそのような事」

「必要ない…?なぜ、昔から男をタラシ込む女はみんな褥と色気でタラシ込むんだよ?」

知らないの?と言いたそうな栄達。


「私ごときでどうにもなりませんし、タラシ込む理由がありません」

「理由があったら、タラシ込むのか」

白夜の低い声が聞こえる。

「天秤にかけて、私の体より大事なものがあれば」

その言葉に、反応する。


「ふっ…お前の躯は、具合が良いからな。簡単にタラシ込めるかもな」

それは彩をおとしめる言葉で、彩は泣くかと思ったが毅然と頭を上げ、真っ直ぐに白夜を見つめ、フッと視線を外し自分の机に座り、型をとったり、ああでもないこうでもないと試行錯誤し始める。


「……姫?」

何も反応しなかった彩を気にする栄達が、声を掛けるが完全に無視する。



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