待っていたの
彩の耳には入るが、雑音として扱われている。


「黒麗はどうした?」

白夜の問いにも答えない彩。


「――月妃!答えよ」

強い口調で言い放つと、肩を震わせ、黒の瞳が白夜を見る。


「ああ、もうそろそろ帰っていらっしゃいますよ。護衛ではない、影から情報上がってませんか?」

護衛のように姿を表さない、影のように対象者を守る。


彩は通称『影』と呼ばれている事を知らなかったが、表現がそれ以外見つからず影と呼んだ。


そういうものも居るだろう、黒麗との事が正しく伝わっているとなると。


――忍者みたいな?


ふたりの表情から、それに準ずるものがいるのは確かだ。


「ああ…月妃に付いているからな」

「左様でございますか。私にはもったいのうございます」

「ああ、マクなんて考えない事だよお姫様?」

明らかに私の行動を知っていたから、カマをかけてみた。


普通に聞いても、答えてはくれないだろう。


「私ごときにマカれるのなら、そちらの方が問題でしょう」

確かに…と白夜はつい納得してしまう。


「彩…」

絹擦れの音も鈴やかに、黒麗がすっきりした顔で入ってくる。


「黒麗さま、こっちとこっちどちらがいいですか?」


「右の模様の方かな?」

何事もなかった様に話す彩に黒麗は、安心し頭を撫でる。


「何をやっているんですか…」

「かわいくて…ついね」

「はいはい…そんな事はいいですから、ズボンスタイルとかタイトスカートスタイルとか、スーツスタイルとか…が作りたいんですけど、最初はスカートの方が作りやすいですよね?」

「そうだね…」

また二人で話しあっている姿を見て、段々白夜の機嫌が悪くなっている。


「陛下は何か欲しいものありますか?」

急に振られた話題。

「あ…いや、特には」

「そうですか」

栄達は呆れた表情で白夜を見、黒麗はため息をついた。

この時は栄達と黒麗の心はひとつ『不器用…すぎる』


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