緑の魔法使い
薬の作り方も秘密だが、俺の家にはもうひとつ秘密がある。
なんと血筋を辿ると天狗の血を引いている。らしい。
子供の頃添い寝してくれた母が寝物語に話してくれた物語だが、母も俺も信じてないが、信じざるをえない事があったりする。

少し早いが薄暗い電気の下で夕食の準備をする。
包丁が切れ味悪く砥石で研いだあとニンジンの皮を向いていたら、あまりの切れ味に失敗をした。
指の腹を包丁で切ってしまったらしい。
紙で切ったような感覚の後ジワリと滲み出る血をぼんやりと眺めれば、それ以上血が流れる事無く赤い水玉を指の上に作っていた。
家の中に引き入れた山水で指を洗い流せば一筋の赤い帯を作りながら排水溝へと消えた。そして指の腹を見れば、そこには包丁で切って血を流した後はもうどこにも見当たらない。
薄く浮いた皮も、ぴりりとした痛みも既に消えていて・・・ありえないほどの治癒能力の高さに天狗の血縁と言うのは満更嘘では無いと思わざるをえなかった。
波乱に満ちた俺の人生の中で唯一と言ってもいい自慢は一度も風邪を引いたことがない。あと虫歯も。
怪しいくらいの健康優良児差に今の義父はたまには学校を休みなさいとまで言う始末。
この場合は単にあの父が俺を連れまわして一緒に遊びたいというだけなので丁重にお断りするが、ある程度は怪しまれないように休んだ方が良いとは俺を理解する人たち全員の意見だ。
そんなありがたいのか迷惑・・・ではないが困った体質の俺をバケモノと呼ばず息子として愛してくれる義父を本当の父親以上に慕うのは当然の帰結と言うものだ。

ご飯が炊けたのをあわせたように煮物と味噌汁としょうが焼きを机に並べる。
テレビをつければ野球がやっていて、する事もない俺はぼんやりとテレビを見ながら、いつの間にか眠りについていた。
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