運命
第2選択 ≪神埼の選択:弐≫
「古典の小テストは中止になります。」

担任の谷口は確かにそう言った。実の顔から血の気が引く。みるみる内に健康的な肌色が薄青く染まる。

「おい!やったな実!」

慎吾が実の肩を叩いた。実は反応することが出来ない。

「実、顔色悪いぞ?大丈夫か?」

不思議に思った慎吾が実の顔を覗き込む。顔色の変化に驚いている様子だ。
大丈夫。と実は冷静を保とうとしたが、表情が言うことを聞いてくれない。
慎吾の提案により、保健室へ連れて行かれた。
保健室に着くなり慎吾は教室へと戻っていった。保健室の独特のにおい、実はあまり好きではない。色々な薬品が並べられた棚に囲まれた部屋の中心に保健室の先生、倉田がいる。

「今朝倦怠感とか、不快感とかはあった?」
「特にないです。本当に大丈夫ですから。ただ、勉強しすぎたというか、はは……」

と実は笑ってごまかし、保健室を後に教室へと戻った。
戻る最中、あれは偶然だと自分に言い聞かせながら廊下を眺めつつ歩いていたせいで、前から来る人とぶつかった。

「あ、ごめ……」

実が顔を上げるとよれよれのスーツに長い白髪、黒いハンチング帽を深くかぶっているため、顔は見えないが、細身で身長は170手前位の男が立っていた。埃をかぶった革靴が鈍く光っている。

「すいません」

実が男を避け教室に向かおうとした。男とのすれ違いざまに

「神埼 実君かな」

老人のような、力を失った声が実の耳に入ってきた。
実が後ろを振り向く。男がこっちを振り向いている。以前顔は見えない。口だけが不気味に笑っている。

「……はい?」

実は何故自分の名前を知っているのか不思議に思い、間抜けな声を出してしまった。
男の口が再び動く。

「君は運命の選択を知っているかね。」
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