運命
第1選択 ≪賢い僕の選択:零≫
朝が来た。家の前の郵便受けに配達人が朝刊を入れに来た。いつもいつも同じことをして楽しいのだろうか。少なくとも僕は絶対嫌だ。同じ肉体労働を何故自分からアルバイトや社員という籠の中でさせられなくてはならないのだ。僕は絶対人から扱われるという行為は受けようと思わない。僕の意志で、僕の決定で、僕が敷いたレールの上を身分の低い愚民共に歩かせる。その途中で、僕が電車で跳ね飛ばして生死を分けてやる。そうでなきゃ人生は面白くない。さて、紅茶でも飲もう。今日はダージリンティー。ママが入れてくれたとっておきの紅茶だ。そこらの底辺階級の愚民達には一生かかっても分からない味だろうな。しかし、今日からまた僕の嫌いな登校という行為が始まる。毎日学校に通い、授業を受け、下校しなければならない。同じ、同じだ。許せない。絶対に許せない。僕の美学に反する。だが、行かなければならない。それは両親が喜ぶからだ。僕が学校へA判定を貰いに行くという行為が両親の最高のプレゼントらしい。A判定というブランドが今の僕の唯一の登校理由だ。それ以外は何もない。

「佑太、モーニングは何が良いかしら?」

ママだ。ママが呼んでいる。ここで返事をするとママは喜ぶ。返事をしよう。

「そうだなぁ、クイーン社製のマカロンがいいなぁ」

クイーン社、僕の大好きなブランドだ。ここのマカロンは絶品で、小さいころからずっと食べている。さて、下に降りよう。

「おはよう」

パパだ。パパは外資系会社の社長。素晴らしい才能を持っている。僕の師匠であり、僕の誇れる親でもある。

「おはようございます。今日もお仕事がんばってくださいね。」

パパが喜んでいる。
僕はなんて親孝行な息子なんだろう。僕もいつかパパみたいな大人になってやる。まぁ、なるんだけども。
さて庭に出よう。庭でのモーニングは最高だ。
マカロンをフォークとナイフで切り分け、それを口に運び、喉を通るマカロンの風味を忘れかける寸前、ダージリンの香を口いっぱいに広げさせる。
最高の贅沢だと愚民共は思うかもしれないが、これが当たりまえだ。人間は贅沢をしなければならないのに、世の人々はそれをする余裕、つまり金がない。かわいそうだ。とてもかわいそうだ。

さて、今日も学校に行こう。そして、喜ぶ両親を背に、期待を胸に、レールを敷き始めよう。

< 21 / 22 >

この作品をシェア

pagetop