先生の秘密




昨年夏のある日、淳一が突然こんなことを言った。

『さくらって、モテへんやろ』

仮にも彼女に向かってなんてことを言うんだと、腹が立った。

しかし残念ながら、淳一が言った通り、私はモテたことなどない。

淳一と出会うまでに恋愛経験がなかったわけではないけれど、そのときの彼と淳一以外の男性に好きだと言われた経験はなかった。

『どうしてかわかるか?』

……どうしてと聞かれても。

内心腹立たしさを感じながら、『女を磨く努力が足りないから』と無難なことを答えたと思う。

すると淳一はすぐに『ちがう』と否定した。

『じゃあ、どうして?』

私はたぶん、腹立たしさを隠せていなかったと思う。

淳一はニコニコしながら答えた。

『大人っぽいから』

意味がわからなかった。

大人っぽいとは、むしろ人として魅力的な要素ではないのか。

私はそう信じて、昔からできるだけ大人っぽくあろうとしてきた。

男子にモテたかったわけではないけれど、それによって嫌な印象を持たれているのであれば、早急に改善する必要がある。

私はそう思い至って焦った。

『高校生とかにしたら、大人っぽい女の子って手ぇ出しにくいねん。男って基本ガキやからな。自分には釣り合わんって思って敬遠する。さくらは美人やからなおさらな』

『そんなの美人って言われても嬉しくない』

『そう? そのおかげで俺がさくらと付き合えたから、俺は嬉しい』

そう告げ私の手を握った淳一を見て、彼はきっとモテるんだろうなと思った。

そしてそんな彼も私を好いてくれたことを、心から幸福に思った。



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