secret WISH



焦点が合わない視界の中で
俺に、光が落ちてきている。
天使が降りてきた‥?なんて。
そんなものじゃなくて、

「セレ、ス‥」

「‥お前、だよな?‥チャロ」

ボロボロと涙を流すチャロは、
血だらけの俺の手を握りしめた。

少しずつ、少しずつ。
その目に色が戻ってきた。
アメシストの様な目だけど
よく見たら、深くて綺麗な紫。
チャロ石の様な、綺麗な紫。

「何故だ!?さっさと殺せ!!」

叫ぶオバサンに、チャロは武器を投げ付けた。
その瞬間、辺り一面が黒くなる。
チャロがオバサンの方に歩み寄る途中
オニキスが降りてきた。
チャロの隣で、オニキスが黒い光を放つ。
此処ら一帯が真っ黒になって‥

「消えるのは、貴方の方ですッ!」



「っ、あああああぁぁぁ!!」



悲鳴を上げて消えたオバサンに
「逃した」とチャロが呟く。

‥あ、訊きたい事‥あんのに。
なのに‥意識が、遠く‥

「セレスッ」

バタバタと沢山の人が走る音がする。
治安署の隊の誰かが、俺を呼ぶ。

「セレス、セレス!‥‥お前が、したのか?」

「‥‥ええ」

違う、違う。
チャロは何も悪くない。

「でも待って下さい。彼の傷を癒すのが先です」

「そう言って、セレスに止めを刺すつもりだろう!」

「違います!!」

「コイツを捕まえろ!」

「待って下さい!早くしないと手遅れになるんです!!」

チャロが悲鳴に似た声を上げている。

起き上がらないと。
チャロが、捕まってしまう。
懸命に腕に力を入れるけど、入らない。

あ‥、何も、見えない。

俺、死ぬんか?
‥ヤダな、チャロに謝らないといけないのに。
訊きたい事も、言いたい事も
沢山あるのに‥‥



俺の周りは、どんどん五月蝿くなっている筈なのに。
なのに、静かになっていく。

それでも、チャロの声だけは
ずっと耳の中で響いていた。



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