前の席
あたしはいつも毅壱としゃべってたから、
同じ班とはいえ、トシとあんましゃべったことがなかった。
『トシ』
『そ、トシ』
『そこで寝てるトシ?』
『そこで寝てるトシ』
小声で話した。
隣を指差しながら、あたし達は笑った。
「っす」
毅壱が来た。
女子にあいさつするヤツじゃないのに。
「おす」
あたしも返す。
由璃はなぜか何もふれず、
「んじゃ、協力してねー♪
宿題やってくるー」
めっちゃうまいこと空気を読んだように席に戻った。
「協力って?」
「ん?秘密。レディーの話だもん」
「レディーってどこだよ」
わざとらしくキョロキョロする毅壱。
あたしの机の上には腕が乗っている。
「ここだってば」
あたしは毅壱の顔を手でこっちに向ける。
はっと気づき、手を引っ込める。
毅壱の顔も真っ赤になっていた。
「知らねーよ」
「へ?」
「だから、次、そゆことしたらわかんねぇから」
「そゆことって」
「ほんっっっとにわかんねぇから」
え、何が?
毅壱は、真っ赤な顔のまま前を向いてしまった。
