前の席
[次の日]
あたしの胸はまだバクバクしてる。
昨日は、一緒に帰った。
「手」
犬に言うような言い方だ。
差し出された毅壱の手を握る。
「いー子いー子」
あたしの頭をくしゃくしゃにしながら、
毅壱はやっぱり赤い顔でにこにこしてる。
「明日ね」
「ああ、またな」
家まで送ってもらっても、まだ夢みたいだった。
今はまだ来てない前の席の人。
昨日のことはあたし達しか知らない。
「おはよー、璃子」
親友の兼子由璃(かねこゆり)が話しかけてくる。
席はあたしの右斜め前。
由璃とは、名前に同じ漢字があることで仲良くなった。
「おはよー由璃」
「ね、璃子さん、相談があんだけど」
「おぉ、言ってみ」
由璃の口があたしの耳に近づいてくる。
『あたし、好きな人、できたよ』(小声)
「まじで!?ちょー誰!?誰!?」
人の恋は結構好きだ。
それが親友となれば、おせっかいをしたくなる。
『ヤザワトシ』
矢沢敏?トシって・・・あたしの隣じゃん!!