光る花
画廊「OKUMURA」
「なぁ、雄一起きろよ。何時だと思ってるんだ?」
ガサツな若い男の声がする。
「ん、なんだよ、忍か。」
幼なじみの忍が、仏頂面で雄一を見下ろしていた。
「なんだじゃねぇよ、搬入に付き合えってお前が3時指定してきたんだろーが」
そうだった。
今朝描き終えた絵とは違うが、画廊に持っていかなくてはならない絵画が数枚あった。
画廊のスタッフに言えばすぐ来てくれるのだが、雄一はスタッフさえもアトリエには近づけたがらなかったのだ。そのため、気の知れた忍によく頼んでいた。

忍は小学生の頃からの幼なじみだった。
その頃の雄一は「おとなしい」とは違っていたが、とても物静かな子どもだった。
笑ったり、怒ったりという、子どもらしい表情が無かった。
そのかわりずば抜けて美しい絵を描いた。
時にそれは恐ろしさまで感じる程のすごみがある絵だった。

大人達はそんな雄一を天才だともてはやした。
だが雄一はそういった大人達が煙たくて仕方なかった。
大人達の言葉は戯言にしか聞こえていなかったのだ。
そして雄一は大人にもてはやされることをひどくきらった。
同じように同級生もおもしろ半分に近づいてきてきたが、愛想の無い雄一を退屈に思いすぐにそれを辞めていった。

忍はそんな雄一と、唯一なじめた、ただ一人の友達だった。
どんなに愛想の悪い雄一の前でも、忍は何も変わらずに接っしていた。
大人も子どもも、しなかった、極自然な態度。
雄一がそんな忍を信頼し仲良くなるのに、時間はかからなかった。

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