猫とうさぎとアリスと女王
 空が白む中、タケの車が朝の冷たい風を切る。
僕は一体どこへ行ってしまうんだろう。
このまま二人きりで世界の果てまで行けたらいいのに。
そうして二人きりで暮らすんだ。タケと僕、たった二人。

そんな妄想を打ち消すかのように、目の前に青い海が広がった。
朝焼けが水面に反射してきらめいている。

凄く綺麗だ・・・。


タケは車を止めて砂浜に降り立った。
僕もすぐに後に続く。


「寒い・・・。」


明け方の風はまだ冷たく、僕はそう呟いてしまった。
潮の匂いが心地いい。

するとタケが僕の体を引き寄せた。
そして肩を抱く。

僕は反射的にタケを突き放した。


「あ・・・ごめん・・・。」


たぶん、僕の顔は真っ赤になってる。
それに気付いてすぐに顔を伏せた。

タケは驚いたような顔で僕を見た。


「俺、なんか嫌がるようなことした?」


タケは煙草に火をつけながら淡々と僕に尋ねる。

嫌がるって・・・。
そりゃあ好きな人に肩を抱かれたら嬉しいに決まってるけれど、僕は男だ。
普通の男が男の肩を抱くのはおかしいよ・・・。


「飛絽彦、おれが人工呼吸なんかしたから嫌いになった?」

「そんな!・・・違うよ。ただ、驚いただけ。」


「だよな。お前、俺にベタ惚れだもん。」


僕はその言葉に驚いてタケを見た。
表情一つ変えずに煙草の煙を吐くタケは、一体何を考えているのかわからない。



やっぱり、僕の気持ちなんて最初からわかってたんだ。


僕は半ば諦めたような気持ちになった。




もう、どうでもいいや・・・。


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