満たされしモノ
「なんだ……これは……

匂いからしてカレーパンみたいだが、なんてグロテスクさだ」


数秒前の上機嫌はどこへ行ったのやら、閂はしかめっ面で靴に付いたカレーを床にのじり付ける。


床に伸びる茶と赤のカレーを……僕は手を付き、ただ眺めていた。


茫然自失の体で言葉が出てこない……


さすがに申し訳ないと思ったのか、閂は慰めるように僕の肩も持った。


「……なぁに、そんなに気を落とすことはないぞ、刀矢。


そんなカニバリズムが増えそうなゲテモノパンより、もっと旨いもの食べさせてやる。だから、元気を出せ。なっ?」


「……


旨いもの……?」


若干の間のあと、閂の言葉に反応する。


不思議に思った。


閂の役職である風紀委員長を含む各委員のトップや学園の職員。


彼等の仕事は極めて厳しく困難を伴う。


よって職務の報酬として学園から『食事』が支給される。


ただし、支給された食事の味は可もなく不可もなく。極めて普通らしい。


当然だ。言い方を変えれば『戦わずして得る』昼食だ。そんなものが旨いはずがない。


……まあ、確実に食事が手に入るのはとても魅力的だが。


とにかく、閂が食べるはずの昼食は決して『旨いもの』ではないはず……


彼女の言葉を不審に思うのは至極当然だった。


……


……いや、まあ、確かにマズパンと比べたら何だって旨いかもしれないけどね……


 

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