ばうんてぃ☆はうんど・vol.2~鷹の目の向こうに《改訂版》
瞬間、風切り音。銃声すら聞こえない彼方からの、1発の銃弾。物理法則に従い弧を描きながら飛来したその弾丸は――
 
びしぃっ!
 
大きく逸れて、王の足元に着弾した。砕けたコンクリートがぱっと辺りに舞い散る。
「この距離と埃の中で当たるものか」
王はスタンディングのまま弾丸の飛んできた方角――ディルクのいる位置にライフルの照準を合わせ、無造作に発砲した。
恐ろしく速い――それが初めて“シルバー・バレット”の狙撃動作を見た、正直な感想だった。
だが無造作に見えたのは、俺が狙撃の素人だからだ。今の一瞬の間にこの男は、距離の計算から風の流れ、気温と湿度、弾道のイメージまで、一気に頭の中で処理したはずだ。
全く無駄のない動き。これが超一流のスナイパーか……
王は発砲を終えると、すかさず俺の方へライフルを向け直し、
「狙撃の勝負においては、先に外した方が負ける」
一仕事終えた満足感も何もなく、淡々と話し始める。
「埃で見えなくても、着弾点から逆算して、狙撃者の位置はわかる。残念だが、君の友人は死んだよ」
俺は左手の銃を下ろし、王の顔に視線を向け続けた。
「抵抗する気力もなくなったかな?」
右手を離し、その手をボルトのレバーにかけ、
「安心したまえ。君が逝った後は、下で待っているあの子だよ」
「言われたんでね」
「何?」
唐突に口を開く俺。
「『動くな』ってさ。あかりも殺らせねえよ」
「何を――」
言い終わる間もなく、再びの風切り音。ほぼ同時に王の右肩――肩甲骨の辺りが血しぶきを噴き出す。
「っが……!」
ライフルを取り落とし、もんどり打って倒れる王。屋上の壁に叩きつけられる。壁の下はせまい裏路地だ。
「バカな……。当たるはずが……」
うめく王を左手の銃で狙いつつ立ち上がり、俺はL96A1を遠くへ蹴り飛ばす。そのまま王の前まで歩いていき、
「DMでのご質問にお答えいたします」
王は左手で右肩を抑え、荒い息をしている。
「『鷹の爪に銀の弾丸を捕らえられるか?』
ディルクの言葉をそのまま伝えてやるよ。『鷹の爪は銀の弾丸ではない』」
「どういう……」
「どういう意味か? そのまんまの意味だ。ディルクとお前とじゃ、同じスナイパーでも目指してるもんが違う。
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