無色の日の残像
 豪華ホテルのような広いエントランスに羽海と空気が目を奪われていると、面会の手続きをすませた無色が戻ってきた。

「あら、珍しい。あなたが花束を持ってくるなんて」

 ちょうど通りかかった看護士の女性が、両手いっぱいにコスモスの花束を抱えた少年を見て話しかけてきた。
「軍のお友達?」と、学生服を着た二人を見て言う。

 空気と羽海は、制服は学徒兵が着るものだ、という無色の言葉を思い出して、ここが『東側』なのだと再認識する。

「はい、そんなところです」

「彼女ならまた屋上よ」
 親しげにそう言う看護士の態度からは、無色がやはり何度もここを訪れている様子が窺えた。
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