無色の日の残像
「おはよう空気」と無色は立ち上がって、空気の方へと歩いていく。

「空気、羽海が恋してるのはキミじゃないらしいよ」
 無色が真面目な顔で言って、
「いや──照れちゃう話なんだけどねえ」
 雨鳥がへらへら笑いながら言った。

「はァ? 何の話してるんだ?」
 シャツの中に手を突っ込んで腹をぼりぼり掻きながら、空気は大きな欠伸をした。

「水一杯もらえますか?」
 雨鳥に向かってそう言って、空気はそのままカウンターに座る。

「え? ──って、え?」

 羽海はここでようやく、自分の発言がとんでもない誤解を招いたことに気がついた。

「ち──違うっ!」

「やだなァー羽海ちゃん、そんなムキになって否定しなくっても」
 雨鳥が満面の笑みで、コップをこんっと空気の前に置く。

 コップの水を口に運ぶ空気の隣に、時限爆弾少女無色が座った。
「羽海が恋してるのは、うと──」

「違うんだからねっ!!」
 暴走した無色の爆発を掻き消す大声で叫んで、羽海は喫茶店を飛び出した。

「──らしいんだけど、それでも空気は羽海に恋してるの?」
 無色の言葉の続きと、ぶほっという、空気が盛大に水を吹き出して噎せ返る音が後ろから聞こえた。
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