お兄ちゃんの気持ち
「浅野くーん、こっち空いてるよ~」

お昼の時間は食堂で全ての新人が一緒に食べる。

研修中は自由がないけど、お昼だけは自由に出来た。

「ありがとう」

浅野と一緒に食事に来た俺は、こいつが歩く度に色んな女の子から声をかけられてなかなか前に進むことが出来なかった。

なんでこんなに有名人?

不思議に思っていると、こいつを取り巻くうちの一人の女の子が声をかけてきた。

「浅野くんと同じ部屋の、河合くんだよね?」

初めて見る彼女は、なぜだか俺の名前を知っていて。

ビックリして何も言えないでいると、ニコニコ笑うその子に俺の腕をつかんで少し離れたところで笑っている浅野の所へ連れていかれた。

なんで!?

わけがわからないまま浅野の横に立たされると、今までこいつ一人を取り囲んでいた女の子達が俺にもあれこれ話しかけてきて。

出身はどこ?大学は?住んでいるところは?独り暮らしなの?彼女はいる?

止まらない女の子達の質問に答えるのも辛くなってきた頃、いつまでも変わらない笑顔の浅野が俺の腕をつかんだ。

「そろそろ食事にしないと、休み時間が終わってしまうよ?」

俺を促すようにして、最初に声をかけてくれた女の子のいる席へと移動した。
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