ふたり

彼女

「穴」は欠陥。

「穴」は虚無。

「穴」は裏側。

「穴」は誘惑。

いけない、と思っていても、
好きなのだ。


それは、底のない、





部屋のなかには、2人。

目の前には、きつく目を閉じて、体をこわばらせた彼女。


「ねぇ…早く、してよ」
彼女が俺を急かす。怖いくせに。

「まって、」
俺は乾いた唇をなめて、ピアッサーを持ち直した。
目を閉じていたはずの彼女が、それを盗み見る。

「・・・楽しんでるでしょ。」
彼女が唇を尖らせる。

「そんなわけない、じゃん・・・」思わず口角が上がる。

俺だって怖い。ひとの耳に穴を開ける、なんて。なんて、愉しい、


「あ、」

彼女の机の上の、安全ピンが目に入る。俺は彼女から離れ、それを手にとり、

自分の耳たぶに、突き刺した。

「な、に・・・してんの?」
突然のことに狼狽する彼女をよそに、俺は針を貫通させる。

ぷち、ぷちぷち、と、殺されるとは思っていなかった細胞の断末魔が聞こえた。

「あぁ、こういうことか。」
俺は妙に納得して、安全ピンの針を引き抜いた。

ぽたた、と、赤が落ちる。

「意外と出るんだね、血。」
俺はティッシュで耳を押さえながら、彼女に振り向いた。
「ニヤニヤすんな、マゾ。」
彼女が吐き捨てる。
とんだ誤解だ。俺はサディストだ。
彼女も知っているくせに、そういうことを言う。

彼女に与える痛みがどれほどのものか知らずに、それをするなんてフェアじゃない・・・気がした。
痛いのは嫌いじゃない、し。


「じゃぁ、行くよ。」
改めてピアッサーで彼女の耳を挟む。
「目を輝かせるな、怖い。」
そう言って、彼女が観念したように息を吸い込み、息を止めた。

これでは彼女が窒息しないうちに開けなければならないではないか。
俺も息を吸い込み、息を止め、ピストンを押す。
ピアッサーのバネが軋む。


ガシャン。


はぁ、と2人のため息が混ざる。
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