学園(吟)
「心配をかけてすいません。本当に、何でもないんです」

渚さんに世話になっているのに、これ以上の迷惑はかけられない。

それに、これは自分の問題なんだ。

何とかして記憶を思い出すなり、吟ネエの言い放った言葉の意味を考えなければならない。

「そうですか」

頬につけていた手を元の位置に戻す。

「もし、吟さんのことでしたら、お力になれるかもしれません」

渚さんにも、吟ネエに気がある事がバレているのか。

「今は大丈夫です」

「そうですか」

「でも、本当にどうしようもなくなった時は手を貸してください」

「ええ」

美しい微笑を浮かべて、風呂場へと歩いていった。

俺もキッチンで歯を磨いて、自分の部屋に戻った。

吟ネエの部屋には明かりはついておらず、声も聞こえてこない。

多分、寝てしまったのかもしれない。

壁越しに吟ネエの部屋を見ていたが、やがてベッドに横たわる。

『お前では話にならないアル』

冷たく突き放された。

俺はどうすればいいんだ?

何も思い出せなかったから駄目なのか?

吟ネエの誘いに乗らなかったのが駄目なのか?

吟ネエの問いに答えられなかったのが駄目なのか?

どれも駄目なような気がして、わからなかい。

「吟ネエ」

俺がやらかしたことは間違いない。

せっかく、少しだけでも認めてもらえたというのに、眼中にない状態に戻ってしまった。

「くそ、くそ、くそおおお」

悔しさを拳に乗せてベッドに打ち付ける。

自分の情けなさに怒りを覚えたものの、時間が経つ内に眠っていた。
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