Symphony V
田舎の夜は暗い。
街灯はとても少なくて、夜は月明かりが頼りとなる。

家を離れていくと、いつもの田舎の夜が広がった。
唯のよく知っている、静寂に満ちた夜。


急がなくちゃ。


車もほとんど通ることはなく、唯はひたすらに走った。持久力はそんなにあるほうではなくて、正直、何度も立ち止まり、息を整えた。

立ち止まるたびに思い出すのは、両親とのいろんな思い出だった。
こみ上げてくる涙。

何度の必死でこらえた。



まだ、何が本当なのかわかってないんだ、泣くな、私。



自分にそう何度も言い聞かせる。




あの電話の声。確かめなくちゃ。


ポケットに入れた、自分の携帯と、蜘蛛の携帯。それを触ると、唯はふぅ、と息をついてまた走り出した。
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