Symphony V
眉間にしわをよせて怒っているときの里香はまだいい。これが、にっこり笑った状態となると、手がつけられない。


過去に何度かそれで痛い目をみてきた子達を、私は知っている。


頭を少しぽりぽりとかきながら、唯は里香と一緒に教室の中へと入っていった。

長い校長の話とは、比べ物にならないくらい短い担任の話が終わり、掃除をして1学期最後の学校生活が終わった。

「ねー、この後どうする?遊んでく?」

里香に聞かれて、唯はごめんと断った。

「今日バイトなんだよね」

「またバイトー?」

不満そうな声を上げる里香に、唯は苦笑いを浮かべた。

「どうしても欲しい物があってさ」

唯が目を輝かせながら答えると、里香は不思議そうに首をかしげた。

「何々?あんまし、ものとかに興味持たない唯が。めっずらしい」

いわれて唯は首を横に振った。

「うーん、てか、私が欲しいんじゃないんだよね。お父さんが欲しいんだって」

「は?お父さん?」

さらに不思議そうな表情を、里香は浮かべた。

「来月、お父さん誕生日だからさ。せっかくだし、ちょっとバイト頑張って買ってあげようかなぁって」

唯が答えると、里香は関心したようにうなづいた。

「よくできた娘っ子だわ、あんた。偉いね」

言われて唯はきょとんとする。

「そう?普通じゃない?」

唯の返答に、里香は軽く首をふった。

「んなわけないじゃん。どんだけいい子なんよ、あんた」

あはは、と、唯は何も言わずに、笑った。
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