ただ、声をあげよう。
「美和はそうやって死んだ。
よし子は何もいわん。
隣の家の人がそうやって教えてくれた」

じいちゃんは、軍服姿の昭吾、あたしのほんとのじいちゃんの写真を自分のほうに向けた。


「この写真、わしはまっすぐ見れん。
昭吾が最後まで守ろうとしたものが、ひとつなくなってしまったことを
昭吾によう伝えられん」


「よし子に昭吾の形見届けてきて、そのままほおっておけんかった。
だから、わしはよし子と豊と一緒に暮らしだした」


「じいちゃん、なんで、そのあとほんとに結婚しんかった?」

「何度もな、よし子に籍入れようって言うたと。だけん、よし子はがんとして首を縦には振らんかった。
だから、わしとよし子は苗字違うたい。
美幸。お前の結婚式でもらった招待状の苗字、わしのほんとの苗字じゃなかよ」

「父さんは、あたしの父さんはこのこと知っとるの?」

「わしは豊にも何も言わん。
だけん、豊が結婚するときに戸籍とったじゃろ。
だから知っとるかもしれんな。
知っとってあえてあいつは何もいわんのかもしれん。
お前にも何も言わんでおいてくれたことだし」


「じいちゃん・・・」

「美幸はわしの孫たい。この腹ん中の赤ん坊はわしのひ孫」

じいちゃんは、仏壇の奥をじっと見つめた。

奥に置かれてるはすの花をかたどった仏具を見てるのか、それともさらにその奥にある何かを見てるのか、あたしにはわからない。



「じゃけん、やっぱりな、昭吾が想いを残して伝えた命じゃけん。
昭吾のひ孫たい。昭吾のことお前に言わんまま、冥土に行くことも考えたけんど。やっぱりな。だから、赤ん坊大事に育ててな」



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