宝石色の幻想
「ご無沙汰、ですかね。」
席につき、ダージリンで喉を潤していた蒼空音に、息を切らしている柏木。
蒼空音の物言いには、少々棘があった。
先に着いていた蒼空音が柏木用に頼んでおいたエスプレッソは、少しだけ温くなっている。
「泣いてるかと思った。」
温くなったエスプレッソの礼をしてから、柏木は席につく。丸テーブルに堅くも柔らかくもない材質の椅子が向かい合っている、店の奥の席。
「泣いてました。でも、美乃を思うと泣けません。」
いつも通りのはきはきした口調。変わったのは少し伸びた髪に、化粧で白くなった肌。
蒼空音が美乃を大事にしていたのは、柏木もよく知っている。その上で目の前の人は泣かないのだ。