One Way Ticket 2
リビングには誰もいない


窓越しにベランダでうずくまる那智の姿が見えた


近寄って声をかける


「那智…?
ただいまぁ―…。」


那智はピクッと体を動かして顔を上げた


「おかえり…。」


その頬には一筋にの跡が残っていた


「…泣いてたの?」


そっと那智の頬を撫でる


那智はその手を握る


「どこに行ってたの?」


那智の視線が私に突き刺さる


「え…―。」


この視線は嘘を許さない


「…良一さんの個展にいってきたんだ。」


怖かった


怒る?


怒鳴る?


私はびくびくして那智の顔色を伺った


「そう。

遅かったね。」


淡々とした口調が私に変な汗をかかせる


「その後、仁の店によったから。
また、葡萄もらっちゃった!」


元気に言っても那智の表情が晴れない


「なにを
話してきた?」


那智はスッと立ち上がって私に背を向ける


知られてる?

私が仁の店で話したこと


見られてた?

良一さんの個展に行った時の事
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