―ユージェニクス―

―9―



――スラムBブロック

ここには“茉梨亜”の家がある。


「おまえ…こんなとこ住んでたのか」

見渡すまでもない簡素な一室。
女の子らしさがどこにもないシンプルなその部屋は、無意識の咲眞の好みだったのかもしれない。


ここは、咲眞が“茉梨亜”として生活していたあの場所だ。


ここ暫く例によって家を開ける羽目になっていたが、以前と変わらない姿のまま。
小さなダイニングテーブルがあり、備え付け洗面所が見え、奥にはベッドもある。

拜早が見上げると、天井近い壁は塗装が剥がれ冷たそうなコンクリートが覗いていた。


そして、部屋に入るなり隅を物色仕出した咲眞に視線を落とす。

「意気込んで茉梨亜を助けるとか言って、まさかこんな所に連れて来られるとは思わなかったな」
「まぁまぁ、仮にも黒川邸に乗り込むんだよ?それなりの準備がいるじゃない」

何やら背を向けごそごそと大量のビニール袋を漁っている咲眞。
それらに一体何が入っているのやら。

「おまえ、茉梨亜だった時ってなりきってたんだろ?おまえ関係のものとかあるのかよ」

ここが“茉梨亜”の家なら、“茉梨亜”のものしかないだろう…と思うのだが。

「確かに僕の持ち物は城に沢山あるけど…何しろ“僕”だよ?例え“茉梨亜”になってたって何かしらこっちに持ってきたはずだよ」
それでもあんまり記憶にないけど、と咲眞は最後に付け足した。

「ま、確かにおまえは目ざとい…からな」
少し小声。


「咲眞って…下着どうしてたんだよ」

ぽつりと口にした拜早の一言に、咲眞は思わず手を止めた。

「はい?拜早ってば僕のブリーフに興味でも…」
「ねぇよ!ってかおまえブリーフ派だったのか?!」
「違うけど?」
「…」


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