―ユージェニクス―
咲眞は軽く笑って拜早へと振り向く。

「茉梨亜の時の事でしょ?流石にミニスカートとかははけなくてさー、茉梨亜がこういう服を着るようになったっていう設定で…僕なりのものを着てたよ」
咲眞は着ていたトラックジャケットの裾をパタパタさせた。

「下着のチョイスはほら…トイレとかお風呂とかと一緒で、無意識の記憶喪失っていうの?」

咲眞は茉梨亜だった時、生活として避けられない“咲眞”の要素を完全に無視の下層に追いやっていた…というのが管原の見解だったが。

「なんか都合いいよなぁ、ソレ」

「人間なんて皆都合良く生きてるものだよ」

「まぁな…」

半ば否定する気もなく拜早は相槌を打って、どうせする事もないしと“茉梨亜”の部屋を物色仕出した。



洗面所がある。

鏡と洗面台が統合された形で、鏡の下の方には取っ手が付いてる…

鏡が扉になっていて、中には小物等が入れられる様になっているのだろう。

「なんか入れてたりして…」

拜早はちょっとした興味で鏡の扉を開けてみた。


ドサリ



それは、中から落ちてきた。


…髪の毛の束。

「ぅおぁあ?!!」
「あ」
予想もしなかった物の登場に驚愕した拜早の叫びと、咲眞の一言。

「なななッなんじゃこりゃ」
「そんなにドモらなくても」

驚いた…驚いたが、だが「それ」が何かは拜早もすぐに理解した。

「カ…」


カツラ、だ。


「茉梨亜のヅラじゃん…」
「やだなぁ、ウィッグって言ってよ」

茉梨亜本人の髪質をそのまま再現した黄土色のウィッグ。
摘み上げてみると、丁寧にツインテールにされている。

「…なんでこんなとこにあるんだよ」
「だってテーブルに置いてたらまずいでしょ」
確かに。

「って、今は持ってるだけで不気味じゃないか?」
髪だけあるなんて…と拜早は呟いたが、咲眞はにっこりしている。
「いいじゃない、記念になるでしょ?」

あぁ、こいつはそういうやつだよな…

そもそもこんな精巧なカツラをいつ用意したのかも疑問ではあるが、聞くのも面倒臭いので拜早は取りあえず全面的に納得した。


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