―ユージェニクス―
蓋尻がゆっくりと部屋の扉を開けた先は、小さな応接室になっていた。

廊下の豪華な雰囲気と違い、飾り気のない冷たい空気を思わせる事務的なそこには、向かい合わせのソファと間に小さなテーブルがあるのみ。
その奥には質素な扉がある。


「待たせましたねぇ」

蓋尻は声を掛けた。

ソファには、二人の少女達が並んで座っている。


一人は明るい黄土色の髪のショートボブ。にこりとした顔を浮かべていて、もう一人は俯き神妙に自分のひざ小僧を見つめている、ロングで癖のある茶髪だ。
どちらも15歳程の歳に見える。


「それじゃぁ、まず名前を聞かせてください」


「あずさでーっす」
「ぁ……美織です…」


蓋尻の問いに素直に答えたのは、先程から笑顔を浮かべている少女。
彼女の勢いにつられもう一人の美織(みおり)という少女も名を名乗った。


「いやはや、どっちもほんと可愛いですねぇ」

「そぅですかぁ?ありがとうござぃま〜す」

あずさと名乗った少女が会話に先立つ。
どうも人を引っ張っていくようなタイプらしく、蓋尻に快活に笑った後美織に目を合わせニコッと微笑んだ。

可愛いが、二人は対象的だと蓋尻は思っていた。

それもそのはず、あずさは自ら黒川邸に入る事を志願して来た子で、美織は我ら精鋭が勧誘してきた少女だ。

調度時期が同じだった為、一緒に自己紹介をさせたのだった。


「それでー、あたし達は何をすればいぃんですかぁ?」
明るいボブの毛先が揺れる。
その黒い瞳にはこれからの事に不安など感じられない。

「なぁに、別に何をしろって事じゃぁないんですよ。ただ黒川様の相手をして頂きたくてね」

「……」
美織はまた、今度は震える様に俯いた。

「ただ、今黒川様にとってナンバー1の女の子がいるんですよ。ここだけの話、君達はその子以上に気に入られるよう頑張って欲しいのです…報酬は弾みますよぉ」

「ナンバー1の子…」
あずさが一瞬口をすぼめる。

「その子より気に入られたら、服とかいっぱい貰えますぅ?」
「勿論です。カタログだってお渡ししますよ。まぁ、とりあえず君達のお仕事は黒川様や、他にも多数の方々とのお相手ですが…見合った報酬を期待していてくださいねぇ」


< 112 / 361 >

この作品をシェア

pagetop