―ユージェニクス―
黒川の屋敷は大きい。
と言っても階数が多くあるわけではなく、一つの階が広いのだ。

巨大で間違った威厳を醸し出すだけの正門と、隣に小さな通用口。
その正門の調度反対側には簡素な裏門があり、少し離れた所に小汚い裏口がある。

ニ階は主に捕われて来た女達と黒服の精鋭の部屋が宛てがわれ、彼らは一応整った部屋を用意されているものの、どういうわけか部屋はしょっちゅう散らかっている。

黒川邸の主は黒川とその一人息子の紀一で、その下には黒川の護衛、警備員、精鋭と続く。
黒川の予定や精鋭、女の管理をするのは自称執事の蓋尻の仕事だ。
…管理と言っても仕事外の事までは見ていないが。

故に仕事の空いた黒の精鋭達は好き放題、蓋尻も黒川もむしろ仕事の報酬として捕らえて来た女を彼らに与えている様なもの。
黒川は未だ茉梨亜にお熱であるし、蓋尻は黒川以外に興味はない。

黒服らはそれをいい事に、仕事が空く時間は報酬を貪り喰っていた。





ニ階、大理石の廊下。
咲眞は堂々と黒川邸を闊歩していた。

蓋尻を探すてがら、先程“あずさ”に用意された部屋に戻って持参の紙袋へ入れていた服に着替えた。
今服装だけは普段の咲眞になっている。
いい加減女の服を着ているのも嫌になったのと、走りにくい…と思ったからだ。

まぁ顔と髪型は“あずさ”だし、誰かに出会ってもこの顔で蓋尻と黒川に面識があるので、適当に言い訳出来るだろう。



キョロキョロしながら歩いていると、廊下に沿った扉の一つが開いている。

この辺りは確か、捕われている女達が居る場所だ。

咲眞も拜早も、あの時まだ動ける間は黒川邸を探索している。
が、気付けばセキュリティが甘く抜け出せる裏口が分かっても、身体は勿論精神まで上手く働かなくなっていた。

「(逃げられない…それは、黒川や精鋭が怖いからじゃない…)」

あの時は体が、黒川を求めていた。

何故か。

それが黒川の魔力というものなのだろう…

忌まわしい。
だが今考えれば不思議だ。

茉梨亜の事があったのに、どうして黒川を求めたのか……


< 136 / 361 >

この作品をシェア

pagetop