―ユージェニクス―
「くっくそぉ…!!」

呻き声にも似た声色を発しながら、段ボールに縋り苦しんでいた男が立ち上がった。

「!」

「おまえぇ!!一体なんなんだ!!」
さっきまでドモりまくっていたくせに、黒服の男は痛みと怒りで拜早に立ち向かう事を決めたらしい。

「俺の楽しみの最中を…しかもこれ、思いっ切り蹴りやがって…ただじゃおかねえ!!!」
部屋に男の声が響く。かなり煩い。

「楽しみって、この人楽しんでるようには思えなかったけど」
男の大復活に驚いて、拜早の後ろに隠れた女の顔は引き攣っている。

「オ・レ・の!!楽しみって言っただろぅがぁ!!!」
拜早を捕まえようと突進して来た男だったが、逆に拜早は自分から向かって行って軽くエルボー。
「グェ」
「…あんた喧しいよ……」
眉を顰め言ったものの、なりふり構わない男の腕が拜早へ飛び出した。

上半身を引いて避けたが拳が頭を掠める。拜早の被っていたキャップを落とした。


「…?!!おっおまえ…!!!」
「!!」

現れた拜早の髪色を見て案の定男は驚愕する。
扉の方に居た女も思わず口元を両手で覆った。

それが隙。

「なんでここに?!白のか…っ」
男が拜早を指差した瞬間、拜早は構えて男の正面へ弾く様に蹴りを入れた。

「!!がは…ッ」

問答無用の蹴りを胸に受けた男は反動で後ろに吹っ飛ぶ。
後ろは壁と部屋の窓。

盛大に弾けたガラス音と、鈍い音が鳴った。


男の肘が窓に直撃し、瞬間ガラスは粉々になる。
ガラガラパラパラと降り散るガラスの破片。
男は壁の方に調度頭をぶつけたらしく、足から床に崩れた後立ち上がる気配は無かった。


呆然としているのは女の方。
「……そんな、すぐ割れる安物のガラスじゃないと思うけど…」
「げ…」

勢いつけ過ぎたか? と急いで男に駆け寄った拜早だったが、男は気絶しているだけできちんと息をしている。

「はー、びびった…」

「……」


女は目の前の事に衝撃を受けていたが、気持ちを落ち着かせ拜早の白髪の事で口を開きかけた。

その時…

「なんだ今の音は!!」

「?!」


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