―ユージェニクス―
――矛盾。
黒川様が好きなものはアタシも好きでなければ忠誠じゃない。
でも、
「茉梨亜が居たからアタシは黒川様の一番になれなかったんだ!!!」
峯は右手を掴まれたまま、拜早へ思い切り蹴りを入れた。
脇腹がみしり と音を起てる。
「かハッ…!!」
勢い良く壁に叩き付けられた拜早はそのまま床へ倒れ込んだ。
「アタシだってねぇ嫉妬ぐらいするのよ!!それに茉梨亜はお人好しだから、黒川様に構われないアタシにまで声を掛けてきたわ!」
「…!?」
ばらけた紫の髪を掻き上げて峯の嫌悪の瞳が拜早を睨む。そして鋭く倒れたままの拜早の横腹を踏み付けた。
「ホント生意気!!人の気も知らないで、ごめんなさいじゃないわよ!!!」
「グゥ、ッ!」
――峯、茉梨亜と何かあったのか?
そう頭に過ぎったが、峯は容赦なく拜早に蹴りを入れる。
「茉梨亜が大切なんて馬鹿じゃないの!?黒川様に素直に抱かれてる時点で、アンタ達を裏切ってるって解るでしょ!!?」
「………ッ!」
歯を食い縛ったのは拜早。
振り上げた肘は力の限り峯の臑(すね)へ。
「!!!」
響く痛さに思わず怯む峯、その隙、拜早は壁伝いに立ち上がる。
「人の気も知らないのはどっちだよ……あんたこそ茉梨亜の気知らないんじゃねーの」
「は……よくあんな子信じられるわね!」
「…友達だから」
「…っ」
「峯、あんた絶対分かってるだろ、茉梨亜の気持ちとか黒川の事とか、自分の気持ちとか……誤魔化してんじゃねぇ!!」
飛び出す拜早、詰め寄ったのは峯の懐。
「女として扱って欲しいんだったな、じゃあ一番死にそうなとこは避けてやる!」
人間の致命的箇所は男女共通として首、眉間、鳩尾、そして…
「ガッ!!?」
顎関節下。
拜早の鋭い掌撃が入る。此処に入れば脳震盪は必死。
「――…!!」
峯は崩れ落ちた。
『アンタは優しいわね』
『え?』
『アタシの事なんて気にしないでよ』
『……ううん、峯を気にかけるのは私のエゴよ』
『?』