―ユージェニクス―

―11―



屋敷の主の部屋。
天井が反射する磨かれた床。
威厳のある装飾品の数々と、金縁の窓枠。

天蓋付きの広いベッドに人影。


「黒、川様……」

人影はベッドの上で喘ぐ。

「もっと……もっとください……」

しかし人影はベッドに一人きり。

立たない腰。

緩む身体を必死に起こしながら懇願する。


「お願いです、黒川様……俺に、もっと……だから」

「焦らなくても大丈夫、君はまた後で、もう一度…ね」

男の声はベッドとは違う場所で聞こえた。

「頼む……今……だから、」

人影は部屋に置かれた豪華なソファーへ手を伸ばす。

「だから、やめて…今、くださ…」

「君は見ていなさい。なかなか見られるものでもないですよ、私のこの姿は」

「……ふ」


ソファーの上には一組の男女。


「………」

ベッドの人影は一人ただそれを見つめるしかない。

助けたいのに、彼女を……
でも身体が動かない。
その身体が求めるのは黒川の体温。

何故?

分からない。

考えても分からない……




「!!」


――不意に轟音。


部屋の扉が突然大きく開かれる。

「…!?」


それは、黒川にとっては前触れもなく、しかし屋敷の中の騒ぎとしては当然の出来事であった。


「…っ?」

ベッドの上の人影はゆっくりと開かれた観音扉に目を向ける。

ノックも無しにしかもこんな煩く、黒川の部屋へ人が入って来るなんて事があるのだろうか。


「誰ですか?」

黒川はソファーの上で奇妙な体勢をそのままに、訪問者へと振り返った。



「げ!黒川……!」

「だからもう一つ向こうの廊下だってば……」


現れたのは二人組の少年。
一人は白髪、一人は黒に金メッシュの髪。

二人は顔を見合わせる。


「どうすんだよこれ」
「僕達場違いだから戻ろうか。お邪魔しました〜〜」

二人はいそいそと部屋から出て、何事もなく閉まる扉。

――パタリ。


「……何ですか今のは」

黒川は流石に目を丸くした。



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