―ユージェニクス―
「……でね、君達が不思議に思ってるだろう管原と勅使川原があの屋敷に居た件だけど」
そう。
それは謎だった。
管原に訊いてもはぐらかされたし、あからさまに研究員である勅使川原も来ていた事から、十中八九研究所絡みなのだろうが。
「…それも言ってくれないつもりか?塔藤サン」
「あはは、うん。言えないの」
誤魔化す、というよりは申し訳なさそうに塔藤は目を細める。
「ただ君達は知らなくていい事で…あまり詮索しないでって伝えたかったんだ」
それを締めの言葉にして、塔藤は自分の腕時計を見やる。
「あぁ、そろそろ戻らないと怪しまれる。今日は管原戻ってこないからここ閉めちゃうけど……大丈夫?」
外は夜。
少年達をスラムの闇に放り込むのはいささか気が引けるなぁと塔藤は思ったが。
「大丈夫だよ?」
「俺ら自分の陣地戻るし」
あぁ、この子達はスラムの住人なんだなぁという事を思い出す。
自分達は外の人間だから、どうしたって一線がある。
暴力や追いはぎなど日常茶飯事で、売買されているものに制限は無いと聞く。
そんな無法だった地帯に世間体も知らない少年少女が身を置いているなんて、例え法律が改定されても、そこで育ち植え付けられた人間の思考は変わるものだろうか。
「……」
そして、自分が嫌悪しているものを思い出した。
(あれの考えも…変えられないのかもしれないな)
「塔藤さん?」
「……あ、今俺とんでた」
「…なんで何もない事でとぶんだ?」
「塔藤はよくとぶ」