―ユージェニクス―
「あ、あぁ!資料にありました!その特効薬研究をプロジェクト…と言うんですね!」

そう返した律子の表情は笑顔ながらどこか焦りが見えた。


「そういう事。君にも早く仕事を覚えて貰わないとね。さぁ薬剤課の現場でも見に行こう」

正面ロビーを横切ってスタスタと進んでいく間宮を追い掛ける。

「……」


奥へ続く廊下はやはり綺麗で、築数年などと思わせない最新さが現れていた。

いくつかのエレベーターが並ぶホールまで来ると、間宮は慣れた様に一つの上向きボタンを押す。


「地下も、あるんですね」

律子はエレベーター扉の上部に並ぶ回数ランプを見上げて言った。
鼻にずれかけた眼鏡を正す。

「ああ、地上十一階、地下四階の全十五階だからね!所長としてはもっと高い物を建てたかったらしいんだけど」

到着音と共に開いた扉に間宮は颯爽と、律子はおずおずと乗り込んだ。

「保護地区にビル影を落とすのはどうかっていう異論が出たらしいよ!全く影と研究どっちが大事なんだか、ねえ!?」

聞いてもいないのに間宮は喋る口が塞がらない。

「は、はぁ」

そんな上司に律子は頑張って相槌を打ち、その後の目線に迷って回数表示を見続けた。


「……研究所、綺麗ですよね。もっと暗いイメージがあったんですケド」

そして思っていた事を呟く。

すると間宮は驚いた顔をした。


「珍しい事を言うね君は!どこでそんなイメージ付けられたんだい」

「え?」


「ここはなかなか上手く世間にピーアールしていると僕も思ってるんだけどねぇ。あれかい?何かを研究するっていう事が暗そうなイメージがあるのかな?」

「あ、えっと」

思わず律子は言い淀む。
そんな事をしていると目的地に着いたらしい鉄の箱は緩やかに扉を開けた。


「おっと到着だよ。このフロアは基本的に総合薬剤課だが、そこから派生した班も使っているのさ。データ処理班…あ、僕の班の通称だけどね、それはここより更に奥にあるよ」

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