―ユージェニクス―

「所長も騒ぎを知ってはいて、各班長に指示を送っている。今所長は?」

「プロジェクトの様子を見に行かれています」

「あの、先程から警備室と連絡が付きません」
一人の研究員が発言した。

「どういう事ですか?」

「侵入者の位置を確認して貰おうと思い連絡を入れたのですが、“少し待って欲しい”と言われて……」

「位置を調べる為の“待って欲しい”じゃなく?」

「はあ、なんだか慌てているという感じで」


その時、長机に置かれていた白い内線電話が鳴り響く。
目の前の研究員がそれを取った。

「ん……どうした?」


何かの報告を一通り聞き終えた後、研究員は受話器を置いた。


「壱村君からだった。侵入者と鉢合わせしたが、確保出来なかったと」

「え、何故……相手は子供二人でしょう!」

「その子供らに、一人大人の男が付いているらしい」

その説明に塔藤が顔を上げる。

「初耳ですね。つまり侵入者は三人?」

「いや……」

研究員は首を振る。

「男は作業服を着ていて、一見業者の様らしいが」

業者……そういえば廊下で自分と管原が咲眞に遭遇した時、傍に見慣れない男が現れた気がする。

(あの男か…?)

「その男だが……どうやって入ったか分からないが……――らしい」


男の職業名が口から出ると、会議室の空気が固まった。


「……ど、どういう事ですか」

「まさか、プロジェクトの機密制が警察に漏れて」

「いや警察は動かないだろう、国は所長が抑えているから」

コネでな……と、周囲が動揺していく中塔藤は無関心な表情を留めていた。

「なんで侵入者と一緒に行動を?」

「というか、それって結局国が動いている事に変わりないじゃないですか!?」


「……」

その場で一言も発言していなかった盟代が唸る。

折笠に倒されたあの後、すぐに意識は回復したのだが……

(私が不甲斐無いわけではない。あの男がそれなら、あの動きも納得出来るじゃないか)

ざわめく会議室の中、盟代は一人席を立つ。

「何処へ?」
続いたのは塔藤。

「勧崎教授の所だ」


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