―ユージェニクス―

―10―

日の光も傾き始めた昼下がり。

晴れ渡る空に煌々と輝く太陽は、今の茉梨亜には少し眩しい。


「いー天気……」

頭上に手の平を翳し、目を細めて茉梨亜は空を見上げた。




管原からあのヒントを得てから数日が経つ。

茉梨亜は、あの時の不思議と高揚した気持ちと何故か分からない心の葛藤を今でも覚えている。


しかし、あの後の事は頭が混乱していたようで、あまり記憶にない。

不安定な状態の茉梨亜を一人帰すわけにもいかず、あの日管原は診療所に茉梨亜を泊めた。
ついでにあの白の怪物に負わされた肩の傷も再度診察し、化膿もないのですぐ完治するだろうと言われた…はずだ。

その時の状況すら、茉梨亜の記憶では曖昧なのだ。


「………はぁ」


茉梨亜は溜め息を衝く。



勿論診療所の夜に何かあったわけでもない。


管原の見る限り次の日の茉梨亜は元気を取り戻していた。



だが、それからも茉梨亜はさほど本調子というわけではなく、どこか上の空で生活している事が多かった。



「今日こそ…白の怪物に会わなきゃ」



あれからそう幾度となく呟くものの、どうしても自分から探し出そうという気にはなれない。

それはそうだ、一度刺され殺されかけた相手。
その辺の欲望に真っ直ぐな男達よりも茉梨亜は白の怪物に恐怖していた。


「けど…“茉梨亜”の友達、なんだよね…」

本名は関根拜早。

何故白の怪物となってしまったのか分からないが、前に秋吉が言ってた事と管原の助言は一致している。



―茉梨亜は殺す―


「“茉梨亜”ってば……拜早に嫌われちゃったの?」


不安気に呟いて、茉梨亜はもう一度空を仰いだ。





この日、茉梨亜の“今”は砕け散る。

抜けるような青空の下、一つの悲鳴を合図にして。




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