―ユージェニクス―

―2―

研究所内、あのデータ処理班の部屋は、今は塔藤の物が散らかっているわけでもなく綺麗に整頓されていた。
そして以前に見られた毛髪の入った試験官も無くなっている。

塔藤は奥の事務机で勅使川原から渡された資料を見ていた。


「そう、拜早君は管原の所に……」

「それから逃亡したナンバー445も管原に接触していたらしい…」

「……元々管原はあの三人と面識があったみたいだし…当然と言えば当然か」

塔藤は資料を読みながら目を伏せる。


「…それで、管原の申請書はもう上に渡して来たの?」
「ああ」
「何が書いてあった?」

前に立っている勅使川原を塔藤は面持ち伺えぬ顔で見上げる。

「三日間連絡入れなかった理由をつけて…ナンバー443を管原の診療所で保護するという内容だ」

「他は?」

「……たぶんそれだけだ。その事について色々書いているらしい…なんだかんだで被験者を研究所外に置くんだからな、それなりに言い訳が要るだろう」

「そう…」

塔藤は一つ息を衝いて背凭れに背中を預けた。


「実験の方は今どうなっている?」
今度は勅使川原が尋ねる。

どこか苦笑して塔藤は答えた。
「拜早君が採ってきたデータのおかげで最終段階だよ。きょ…ナンバー128が今日実施するって」

「そうか」
勅使川原もいい顔をしていない。

「…しかし監察する方も大変だよね」

「おまえは…以前監察したんだったな」

まぁねと軽く言い、塔藤は机に肘を立てて手の平に顔を預ける。

「可哀相な俺のアレも、あんな実験よりまだ適当なAV見てる方がましだよ…」
「…おまえ鮪だからな」
勅使川原が無表情に呟いた。

「そんな事言うけどあれはないよホント。萎えるとかいう問題じゃなくてね、周りのピリピリした感じが…」
「…兎に角、俺達は今やれる事をやるだけだ」
塔藤の何やらよく解らない言い分を一蹴した勅使川原に、塔藤は勢いを削がれてちょっと拗ねてみる。

「ま、言う通りだけどね…さて、俺達も自分の仕事しようか」


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