―ユージェニクス―

―4―

スラムのAブロック。

そこは勿論Bブロックと隣接している。

ブロック間を仕切る開け放たれた巨大な鉄扉は、深い緑色の塗装が剥げて褐色した錆が否応なしに陣取っていた。
もう何年も閉まった事などない図体が、どっしりと拜早を見下ろす。


「ここも久しぶりだな」


Aブロックに何が在るか…



拜早が思い付くものは一つだった。



「城に行くのなんていつぶりだ…」



三人で城に見立てた巨大な秘密基地。



(咲眞…居るなら城だろ?でも…)

本当に城に居たとして、ではそこで何かをするつもりなのだろうか。

「(ただ居るだけなんてのは咲眞らしくねーし…何か企んでるからこっちに来たんだろうけど…)」

咲眞が考える事はろくなものじゃない。

「(いや、色んな意味でだけどな…昔っから頭回る奴だしよ)」

ともかく、あまりいい予感はしない。



左右のコンクリートの瓦礫を見送りながら、拜早は慣れたような足取りで歩を進める。


ここも、よく三人で遊んでいた。
ついこの間の事なのに、ずっと昔の様に思えるのは何故だろう…

寒々しい風に目を細める。

「…拜早、くん?」

風が吹き抜けていくと同時に、拜早は何者かに呼び止められた。

「?」
訝しげに声の方へと振り向くと、知り合いの顔が片手を上げている。
どうやら相手に気付かず通り過ぎてしまったようだ。

「あっ…あー、秋吉サン!」
細い目をしたその男の名を、記憶を掘り起こして思い出す。
時々自分達を気にかけてきてくれた人だ。そういえば会うのはかなり久しい。


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