―ユージェニクス―
廃ビルへと続く地下水路は、水路の左右に歩道の足場がある為水に濡れる事はない。
ただ冷たい空気が風と共に流れている。


水路は入り組んでいて暗いが、城の中に出る梯子にまでは迷う事もない。
少し行くと上に出る梯子が見えた。


梯子の先を見上げても闇が口を開いているだけ。

たが、拜早は行く先のマンホールが空いている事を知っていた。


躊躇もなく梯子を上がりきると、廃ビルの中の空間に顔が出る。

「……」

外から入る薄明かりが、窓になる予定だったのだろうコンクリートの壁の穴から差し込んでいた。


「…ここは…前のまま、か」

拜早はマンホールから出て軽く辺りを見回す。

あまり広いわけでもない…六畳程の部屋に工事用の看板や網が雑然と置かれており、部屋唯一の扉は触れられた形跡も無く寂しく開いていた。


城に入るなら、自分達三人はこのルートを使う。

咲眞も…



もう一度拜早は周囲を見回してから、ゆっくりと部屋を後にした。



「とにかく上に行かないとなぁ…咲眞の使ってたとこは…五階か」

すぐ前のエレベーターの扉を見上げる。


このビルは上手い具合にエレベーターの設置が出来ていた。その方が後先の工事のし易さもあったからだろう。
しかし工事は中断された為にエレベーターの外観は質素で鉄臭い。

「(…今これ動くのか?)」
あの時は自分と咲眞でこの廃ビルに電気を通すという技をやってのけた。
もともとある程度配線は来ていた為、後は機械工学マニアの咲眞が拜早もあんぐりする程の知識で指示してくれたからなのだが、今現在はどうなのだろうか…。


「あ、やっぱ無理か」

エレベーターのボタンを押してみるも反応無し。

だが咲眞がここにいるなら電気を全く使っていないというのも考えにくい。
「使わないやつは電気落としてるのか…?まぁ、これじゃあ階段決定だな」

自分の状況に拜早は軽く溜め息を衝いた。


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