―ユージェニクス―

日の輝きが、消えていく。


「大切な人が、自分の目の前でよくも知らない男にはだけさせられる…悪夢だよ、何が良かったのか黒川は茉梨亜を気に入った。そして僕らに“それ”を見られる事も…」


自嘲…けれど、その咲眞の拳は既にきつくきつく握られ、衝動と慟哭で震えていた。


窓の外は既に日が僅か、そうなると足早に夜の闇は迫ってくる。

窓に掛かる中途半端に開けられたブラインドが、最後に光る太陽の影を薄く残していた。



日が堕ちる。


「…茉梨亜が終わったら次は、また僕らの番だ…」


「…もう、いい」

管原が、止めた。






話を切る様に管原は立ち上がって壁のスイッチを入れる。

診療所の奥の電気が点き、蛍光灯の明るさが診療所を夕闇の幻想さから現実へと引き戻した。




「あ……あはは……また茉梨亜になりたくなってきたよ」

茉梨亜はあの頃のまま綺麗で……


椅子に身を預け、乾いた笑いをした咲眞の瞳は揺れていた。


「…咲眞」



管原の低い声が耳に入る。

咲眞は顔を上げた。




「大丈夫………」






拜早も、顔を上げていた。



現実を、見ていた。





太陽は躊躇する事なく消え沈む。

時間は戻らないのだと、嘲笑うかの様に。





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