恋し金魚
第一章 雨空
残された時間はあとわずか。


最後にあなたに伝えたい。




梅雨の真っ最中。

セミの声は雨の音にかき消されて、部屋の中は暑さと湿った空気だけ。


その中で私は静かにまばたきさせた。


最近
体が痛くてあまり動けない。呼吸も苦しい。
私、病気なんだ。


幸くんも心配してるみたい。


幸くんの帰りは8時くらい。


バイトっていうのしてて帰りは遅い。

でも帰ってきたら私と一緒にご飯を食べてくれる。

幸くんは私とよく話してくれる。

バイト先のこと。


学校のこと。


幼なじみの子のこと。

幸くんは私の大切な人。


あなたに出会ったのは4年前の夏祭りでだった。


金魚すくいの屋台で、あなたは一生懸命に金魚を捕まえようとしてた。


あまりにも真剣だったから私言ったんだ。


「わたしを見つけて」

私はあなたに近づいて、あなたは私に気づいてくれた。


そして私は彼と河原を歩く。

「名前…どうしようか。」


「名前?つけて!」


「ん~。何にするかなー。」


悩んで

悩んで

そしたら


バーーーーーンッ!!

いきなり暗闇の空に花火が舞った。



「…花火!お前の名前、今日から花火だ!」


花火。


あなたがつけてくれた。


それからあなたと私はいつも一緒だった。

夜の8時にあなたが帰ってきて一緒にご飯を食べて、少しお話して寝るときは「おやすみ」って言ってくれるんだ。


幸くんは優しい人。


そんなあなたに私は恋をしました。

大好きで


大好きで


でも

私は 金魚。


金魚鉢に泳いでる小さな金魚だから


あなたに伝えられない。


最後のときが近づいてるって…


私はもう、あなたのそばにはいられなくなるって


それと 私の気持ち。

あなたに言いたい。

あなたに 逢いたい。

私は金魚鉢から飛び出した。


夏祭りの花火があがったら、もう私はいない。
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