恋し金魚
第二章 少女
雨がコンクリートを叩きつける。


水溜まりに映るのは霧に包まれた町の風景。

その場には少女が立っていた。

真っ赤なワンピースを着て降ってくる雨を見つめている。


ここ…どこ…?


幸くんの部屋じゃない。


水溜まりをのぞくと映った自分の姿は人間だった。


「わたし…人間になったの?」


手が足が体が人の姿だった。


金魚じゃない。幸くんと同じ人間…



記憶は金魚鉢から飛び出したときからわからない。


でもあのとき感じた。


私の命は夏祭りの花火がはじまるまで。


それまで人の姿で幸くんといられる。



それだけで いいんだ……



ふと私は辺りを見渡した。

知らない場所。


金魚鉢の中では見たことはなかった世界。


急に幸くんに拾われる前の自分を思い出す。


「誰か… 暗くて何も見えないよ…。」


寒くて狭い倉庫。


金魚達は闇の中をただ泳ぐだけ。


命を絶つ金魚もいた。

私達は人間を恨んだ。


でもそれを変えてくれたのが幸くん。


幸くんといるとあったかくなるの。


でも…今知らない場所にいる。


幸くんの姿はない。



「幸くん……どこ?」

私はその場にしゃがみこんだ。


幸くん


コワイよ…







雨の中を誰かが近づいてくる。



「あの、どうかしましたか?」



この声…


幸くんの声だ……



私は後ろを振り向く。

そこには幸くんがいた。


「…幸くん…。」


「え?僕のこと知ってるんですか?」


「花火!私、花火だよ!!」


「えぇ? たしかに花火っていう金魚は飼ってますけど、君のことは知らないよ?」



そんな…どうしてわかってくれないの?


あ。

私、今人間だった…。


「~~っ。」


「あの?」


私は決めた。


「私、はなびっていいます。さっきはごめんなさい!あなたと会うのは初めてでした。」

「ぁあ…やっぱそうですよね!」


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