恋し金魚
第五章 涙と雨
あれから…どれくらい歩いただろう

さっきまで暗かった空が明るさを増していた。



町はあまりにも静かで、時が止まったようだ。



幸くん…心配してるかな



ううん。



もう 忘れなきゃ。




私はぎゅっと目を瞑った。



さよならしなくちゃ


幸くんを苦しめるんだから…




ザァァ…



「え?」



今の 風の音…?




風が吹いているのは町の狭い路地の間からだった。



私は誘われるようにその路地を通る。




暗いな…



もう朝なのに路地は暗くて長い。




出口はあるのだろうか。



少し歩くと隙間から光が覗かれた。



「あ…風…」




ときおり風が私の長い髪を揺らす。




出口を出ると一気に風が体を包んだ。



ザァアア…



「わっ…」



少しずつ目を開けると目の前には広い河原があった。




「…うそ… ここ…」
幸くんと初めて出会った河原。




私はそのまま草原に寝そべった。



空は青々としていて、少し金魚鉢の中を思い出した。






「前までは…ただの金魚だったのにね…。」



悲しい


本当に私は今何をやっ
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