月夜にヒトリゴト

家庭事情

圭亮のうちは、お父さんが、手をあげる人で、母親と一緒に親戚の家に身を寄せるほど、ひどいものだったらしい。
心の傷は癒えることはないだろうと、私は、聞き手に回るだけで、それ以上は問い詰めなかったけど、お姉さんは、心の病にかかり、不登校となり、学校も辞めてしまったようだった。
そんなこと、全く知らなかった私は、圭亮のお姉さんは、綺麗で控えめで素敵よね~なんて憧れてもいた。

人は本当に見た目では分からない。
そんな苦労と、誰にもいえない心の闇が、圭亮にもあったなんて思いもよらなかった。

それと同時に、私自身も、毎日笑顔を取り繕っていたから、家が大変な状態だったとは、誰も知らなかったと思う。

自分がそういう、誰にも言えない悩みや、暗闇を抱えて生きてる人は、もしかしたら、他人もそうかもしれない~と思う“何か”が生まれる。
聞いて欲しくないことが、この人にもあるかもしれない。
そんな遠慮にも似た“思いやり”が生まれてしまい、多くを語らず、多くも求めない。
そんな生き方が身についてしまう。

心を痛めているからこそ、人の痛みも分かり、それをどうすることも出来な自分の無力さも、痛いほど分かっている。
だからこそ、多くを語らず、多くを聞きたがらず、多くを求めない。
そうすることで、他人と距離が出来てしまおうと、仕方ないのかもしれない。

私は、自分がそうやって、自分ではどうしようもない家庭の事情で、セツナイ思い、残念な思いをしてきたからこそ、子ども達に同じ生き方をさせるわけには行かないと、強く思うようになっていた。

きっと、圭亮も同じように、手をあげる人間にはなるまい。
家族を大事にしていこうと思っていたに違いない。
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