吸血鬼と紅き石
(逃げなければ)

理性は警鐘を鳴らしている。

逃げなければ、にげなければ、ニゲナケレバ。

必死で思うのに、身体が動かない。

自分の身体と心が、別のものにでもなってしまったみたいだ。

ニタリ。

視界の先で、ザーディアスが笑ってみせた。

男が持つ二つの闇も、それに合わせて緩い弓状に曲がる。

それが恐ろしくて―――例えようがない程に恐ろしくて。

二つの闇と、それに付き従うかのような真っ赤な唇を歪な弓状にしつらえたまま、ザーディアスはゆっくりと床に座り込んでいるリイエンに腕を伸ばした。

< 215 / 263 >

この作品をシェア

pagetop