吸血鬼と紅き石
危険だ、“アレ”は危険。

ガンガンと、痛い程に頭の中で警鐘が鳴り響いているのに、指の一本はおろか、視線すらも縫いとめられて男から動かせない。

ザワリ。

男の指先から染み出した、黒い闇が霧となって空間を震わせながら、リイエンに向かって来る。

危険、危険。

“アレ”は危険!

「―――ルト…」

鳴り響く警鐘が、凍りついた唇をせっついて開かせた。

呼ばなければ。

彼を、呼ばなければ。

必死の思いに心臓は激しく脈打ち、凍った声を呼び覚ます。

「…レンバルト!」

少女の声と共に、灰霧の王が姿を現した。


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