夢みる蝶は遊飛する

もし、父がその時家に戻ってきていたら。

私たちは一度壊れた幸せな家庭を、また作り上げていたのだろうか。

しきりに謝る父に、私も期待を裏切ったことや故障を隠していたことを謝って。

そして母も取り乱してしまったことを謝って。

そうしているうちに、いつの間にかみんなが笑顔になっていて。

父が望んだように、新たな関係を築いて、もっと深く結ばれた家族になって。


父がたとえ病気であったとしても、また、明るさと温かさが家に戻ってきていたのだろうか。

父が病と闘っているのを、手を握って母と私が励まして。

学校帰りに病院に寄った私が花瓶の水を替え、母が果物の皮を剥いて。

待ち受ける未来がたとえ悲しいものだったとしても、そこにはたしかに幸せがあったはずだ。

私が心から望んでいたすべてが、そこに。

泣きたいほど羨んだ光景が。


「離婚は、彼なりの精一杯の優しさ。自分のせいでこれ以上、あなたたちを悲しませたり、苦しませたりしたくなかったから、決別して生きる道を選んだのよ」


父は、最期まで母を愛していた。

こんな私のことも、大切に思ってくれていた。

だからこそもう会わないと決意して、独りで病に立ち向かうことに決めたのだ。

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