夢みる蝶は遊飛する
その後須賀くんは、沙世が登校してきて話を遮るまで延々と、自分があの記事にいかに感銘を受けたかを語っていた。
もうなにも言わないで。
そう心の中で願っても、目の前の彼には届かない。
無理矢理傷口を開かれたようで、心が痛かった。
過去が、よみがえってくる。
背負った大きな期待と、湧き上がる盛大な歓声。
使命感と誇り、それから闘志に燃える心。
鮮やかな真紅の残像。
抱えた不安と痛み。
隠した苦悩と涙。
放ったボールが描く軌跡。
鳴り響くブザーとホイッスル。
断末魔のような苦しみ。
過呼吸になりそうな自分に気がつき、私はゆっくりと息を吸って、吐いた。
そして、自嘲を込めた笑顔をつくる。
「でも、紅の魔女の代がみんな、全国トップレベルの実力をもってたわけじゃないから」
私がそんなにバスケができたように見える? と、言外に示した。
これ以上は、踏み込ませない。
自分でも、まだ折り合いがつけられていないのだから。