モラルハラスメントー 愛が生んだ悲劇
『俺がいつ、仕事を続けていいと言った? 』
裕子の頭は真っ白になった。
「仕事は続けていいんじゃなかったの? せめて、妊娠するまでとか・・・会社の人にもそう話して、パーティーに呼んだのに・・・」
裕子は抗議した。
『そんなことは一言も言っていない。
仕事のできる君が素敵だと言っただけ。
勝手な解釈はやめてくれよ。
恋愛と結婚は別だろう?
女はすぐにそうやって自分の都合よく事実を捩曲げるんだよな・・・。』
直哉は恐ろしく長いため息をついた。
そうゆうものなのだろうか。それならそうと、先に言ってもらいたかったと思うのは、我が儘なのだろうか。
裕子は俯いて、しばらくじっと考えた後、
「わかった。 来週、上司に話してみるわ。」
と、答えるしかなかった。
ふと、彼の父親の姿を思い出していた。
直哉の田舎では、女が外で働くことに対して偏見があるのだろうか。
故郷が違うというのは、結婚に対する価値観も違う。
仕方ないことなのかもしれない。
倉澤との生活を守りたいという欲望が、彼女の思考や判断を大きく鈍らせていた。